古民家の天井裏から奇妙な鳴き声がした。専門家を呼んで開けてみると、その場にいた全員が固まった

21. 保護区の指定

数ヶ月後、その土地は公的な野生動物保護区に指定された。州政府と連邦機関が協力して手続きを進め、トムとキャロルは土地の所有権を保ちながら管理者として協力する形となり、工事はできないものの管理費の一部が補助されることになった。「結果的に、俺たちはどうなったんだろう」とトムが言ったとき、キャロルは少し笑った。古民家を買ったときに描いていた未来とは、まるで違う場所に来ていた。

22. 共存の形

パーク博士と相談しながら、コウモリの出入り口を確保しつつ住居部分に断熱を施す改修プランを練った。天井裏には手をつけないという前提のもと、工期は延びたが計画は着実に進んでいった。「コウモリと一緒に住むんですか」と近所の人が聞いたとき、キャロルは「同じ屋根の下に住むだけです」と答えた。その言葉は、二人の覚悟を静かに示していた。

23. 春の出来事

翌年の春、「今年の繁殖数は過去の推定より多い可能性があります」というパーク博士からの連絡が来た。トムは天井を見上げた。昼間は静かで、夜になると音がした。毎年少しずつ音が増えている気がして、「うちは増え続けるのか」とトムは苦笑いした。この家が選ばれ続けている理由は、まだ誰にも完全には分かっていない。

24. 夜の光景

ある夏の夕暮れ、トムとキャロルは裏庭に出た。日が沈んだとき、軒下の隙間から黒い影が出始め、一つ、二つ、十、二十と増えていき、一分も経たないうちに空に無数の影が飛び交っていた。「毎晩こうなんだな」とトムが言うと、「毎晩ね」とキャロルが答えた。二人は並んで空を見上げたまま、しばらく何も言わなかった。

25. 研究者たちの来訪

その夏だけで十人以上の研究者が来て、天井裏に入り、個体にタグをつけ、データを集めた。「このコロニーの研究で、インディアナコウモリの生態が相当分かります」とある研究者が言い、「役に立てているなら」と答えるトムに、「役に立つどころか、この発見は絶滅危惧種の保護計画に影響を与えるレベルです」と研究者は続けた。一軒の古民家が、種の保護に関わる場所になっていた。

26. パーク博士の論文

パーク博士はこのコロニーの研究を査読付き学術誌に論文として発表し、その謝辞にトム・エヴァンスの名前が「工事を止めたことに感謝します」という一文とともに載った。「俺は感謝されるようなことをしたかな」とトムがパーク博士に言うと、「しましたよ」と博士は迷わず答えた。あのとき天井を外した偶然が、学術的な記録として残ることになるとは、トムは想像もしていなかった。

27. 三年後の家

古民家は今も建っている。天井裏には手をつけないまま、住居部分だけを改修してトムとキャロルは暮らしている。夜になると天井から音がするが、それが「家の音だ」とキャロルが言えるようになるまで、そう時間はかからなかった。春になると増え、冬になると少し静かになるその音を、二人は季節の変化として受け入れた。七十年前にこの家を建てた人は、こんな未来を想像していただろうか。

28. 近所の変化

近所では今もあの古民家が「コウモリの家」と呼ばれ、夏の夕暮れには近所の子どもたちが裏庭の前でコウモリが出るのを見ていく。「ここが好きなのかな」と子どもが聞いたとき、「みんなそれぞれ好きな場所があるんじゃないかな」とキャロルは答えた。その言葉を聞きながら、トムはこの家がずっとそういう場所だったのだと気づいた。

29. 毎年続く調査

毎年夏になるとパーク博士の研究チームが来て、個体数を数え、タグを確認し、健康状態を記録する。「今年の個体数は」と毎年トムが聞き、「増えています」と毎年博士が答え、「よかった」とトムが毎年言う、その繰り返しが積み重なっていった。古民家を買ったときに想像していた未来とは全く違う生活だが、トムに後悔はなかった。

30. 今夜も飛び立つ

今夜も日が沈むと、軒下から影が出てくる。一つ、また一つ、あっという間に空が黒い影で埋まる。トムは裏庭の椅子に座って見ている。七十年前に建てられた家。三十年間の空き家。そしてトムが来て、天井を開けた。そこに三百頭以上のコウモリがいた。それからまた何年も経った今夜も、影は空へ飛び立っている。明日の夜も飛ぶだろう。※この物語はフィクションです。登場人物や出来事はすべて架空のものであり、実在の人物や出来事とは一切関係ありません。写真はイメージです。

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