毎日同じ場所を掘るゾウ

フロリダ州オカラ郊外のシルバースプリングス・エレファント・サンクチュアリで、ある朝、ヘッドキーパーのトム・ブラッドリー(55歳)は監視モニターで奇妙なものを見ました。ナラ(25歳のアフリカゾウ)が飼育エリアの北東の隅で地面を掘っていたのです。前足を力強く踏み込み、象牙で地面を削りながら同じ場所を繰り返し掘り続けていました。「珍しいな」とトムは思いました。しかしその行動は翌日も、その翌日も続きました。
止まらない行動

1週間が経ちました。ナラは毎日同じ時間に同じ場所へ行き、2〜3時間掘り続けました。サンクチュアリの他の象はその様子を遠くから見守っていました。サンクチュアリ所長のドクター・レイチェル・キム(42歳)はトムと一緒に記録映像を確認しました。「なぜナラはこの場所にこだわるのでしょうか。この行動が何を意味するのか、私には分かりません」とレイチェルは言いました。
スタッフの困惑

2週間が経っても行動は止まりませんでした。ナラが掘る場所は直径3メートルほどの範囲で、深さは30センチに達していました。スタッフが別の場所に誘導しようとすると、ナラは静かに抵抗し、やがて元の場所に戻りました。レイチェルはスタッフ会議を開きました。「この行動の原因がわからないと対処できない。ナラは何かを伝えようとしているのでしょうか?」
サンクチュアリの設立

シルバースプリングス・エレファント・サンクチュアリが設立されたのは12年前のことでした。レイチェルはそれまでアフリカでゾウの保護研究をしていましたが、アメリカ国内の動物園で不適切な環境に置かれていたゾウたちを受け入れる施設を作ることを決意しました。フロリダ州の温暖な気候と広大な敷地が、ゾウに適した環境を提供できると判断したからでした。
ナラの来歴

ナラがサンクチュアリに来たのは8年前でした。ニューヨーク州の動物園で20年近く単独飼育されていたアフリカゾウでした。単独飼育のストレスで体調を崩し、動物園が手放すことを決めたのです。フロリダに来た当初、ナラは広い空間に戸惑い、隅に縮こまって動こうとしませんでした。レイチェルは毎日ナラのそばで声をかけ続けました。
マヤとの出会い

ナラがサンクチュアリに来て2ヶ月後、タンザニアの動物保護区から別の象が来ました。マヤ(当時17歳)でした。群れから離れ単独行動をしていたところを保護されたのです。ナラとマヤが最初に対面した日、二頭は長い時間鼻を絡め合わせていました。「象にとって鼻を絡めることは人間のハグのようなもの」とレイチェルは言いました。なぜ二頭はこれほどすぐに打ち解けたのでしょうか?
二頭の絆

マヤとナラはすぐに離れられない関係になりました。毎日一緒に水浴びをし、草を食べ、木陰で並んで眠りました。マヤはナラより体が小さく年も若かったですが、いつも先に立って行動しました。ナラはマヤについて歩くことが多かったです。レイチェルは観察日誌に「互いに依存しているのではなく、互いに支え合っている関係」と記しました。
マヤの死

2年前の秋、マヤが突然食欲を失い、3日後に倒れました。緊急の検査で肝臓に問題があることが判明しましたが、回復を待つ間に息を引き取りました。23歳での死でした。ナラはマヤの亡骸のそばから3日間動きませんでした。スタッフが食事を持ってきても食べませんでした。ゾウは亡くなった仲間を悼む行動をとることが知られていますが、ナラの悲しみはいつまで続くのでしょうか?
ナラの哀悼行動

マヤが亡くなった後、ナラは1週間ほど食欲がなくほとんど動きませんでした。やがて少しずつ日常に戻りましたが、以前よりも口数(鳴き声)が減り、一人でいることが増えました。スタッフはナラの様子を毎日記録し、回復を見守りました。1ヶ月後には食欲も戻り、他の象とも交流するようになりました。レイチェルは「ナラは立ち直ってくれた」と安堵していました。
日が経つにつれて

マヤの死から2年が経ちました。ナラは安定した日常を取り戻していました。しかし今回、この掘る行動が始まったのです。なぜ2年も経った今になって、こういった行動が現れたのでしょうか。季節は秋で、ちょうどマヤが亡くなったのと同じ時期でした。「象には周年反応があるのでしょうか。人間のように、年ごとに悲しみが戻ってくることがあるのでしょうか?」とレイチェルは日誌に書きました。