嵐の夜に8歳の少女が公園で拾った白い犬。獣医がタグの番号を調べたとき、3年分の悲しみが動き始めた

11. 3年前の迷子届

データベースに映し出された迷子届と白い犬の写真
データベースに映し出された迷子届と白い犬の写真

マーカスは静かに端末の画面をエラとダンに向けました。そこには「迷子届 受理番号:FL-2023-0847」という文字と、白いマルチーズの写真が表示されていました。届け出たのは、同じネイプルズに住むトンプソン家。3年前の11月、今と同じような嵐の夜に消えたと書かれています。「この子はもともと、誰かに飼われていたんだ」とダンがつぶやきました。エラは写真の中の犬と、診察台の上の犬を交互に見比べました。3年間、あの公園でどうやって生きてきたのでしょうか。そして届け出を出した家族は、今も探しているのでしょうか。

12. 翌朝の電話

受話器を手に感動した表情で電話する獣医
受話器を手に感動した表情で電話する獣医

翌朝、マーカスはトンプソン家へ電話をかけました。ベン・トンプソンが出ました。「ネイプルズ動物病院のウェブといいます。お宅で届け出された白いマルチーズのことで」と告げると、受話器の向こうで一瞬の沈黙が流れました。それから「……本当ですか」という、かすれた声が返ってきました。3年間、ずっと待ち続けていた家族がいたのです。電話を終えたマーカスは、待合室で結果を待つエラのもとへ歩いていきました。どう伝えようかと考えながら、その小さな背中を見つめていました。

13. トンプソン家の話

獣医から話を聞いて驚く父娘の表情
獣医から話を聞いて驚く父娘の表情

トンプソン家は、モリス家から車で15分ほどの場所に住んでいます。父のベン、母のキャロル、そして息子のライアン——今年8歳で、エラと同い年です。マーカスからベンに聞いた話によると、ライアンが5歳の誕生日に初めて迎えた犬がこのマルチーズでした。名前はライアン自身がつけたと言います。その名前を聞いたとき、ダンは思わず「えっ」と声を上げました。「ハッピー、というんですよ」とマーカスは静かに言いました。エラの顔が、みるみる変わっていきました。

14. ライアンの3年間

机に犬の写真を飾り、窓の外を見つめる少年の後ろ姿
机に犬の写真を飾り、窓の外を見つめる少年の後ろ姿

マーカスはベンから聞いた話をそっと続けました。ハッピーが消えた夜から、ライアンは別人のように口数が減ったこと。大好きだった野球の練習にも行かなくなり、放課後は自分の部屋に閉じこもるようになったこと。学校の先生から「気になる様子がある」と連絡があったこと。ハッピーの写真を今でも机の上に飾っていること。「ベンさんは『息子がいつ元気を取り戻すか、もう諦めかけていた』とおっしゃっていました」とマーカスは言いました。エラはじっとハッピーを見つめながら、3年間その子を待ち続けた男の子のことを想像していました。

15. エラの涙

涙をこらえながら白い犬の頭をそっとなでる少女
涙をこらえながら白い犬の頭をそっとなでる少女

「ハッピーはその家族に返さないといけないの?」エラは静かに聞きました。ダンは答えに詰まりました。クレアがエラの隣にしゃがみ込み、「そうだよ、エラ。ずっと待ってた子がいるから」と言いました。エラは下唇を噛みました。涙がこみ上げてくるのをこらえているのが、ダンにはわかりました。しばらくして、エラはゆっくりと立ち上がり、ハッピーの頭をそっとなでました。「わかった」とエラは言いました。「でも——会いに来てもいい?」その言葉を聞いて、マーカスは静かに微笑みました。

16. ハッピーの回復

ケージの中で回復しつつある白い犬と様子を見る少女
ケージの中で回復しつつある白い犬と様子を見る少女

翌日も、エラはマーカスの病院へ会いに来ました。ハッピーは点滴のおかげで体温が戻り、目に少し光が戻っていました。エラが名前を呼ぶと、か細い声で短く鳴きました。「すごいな」とマーカスはつぶやきました。「昨日から誰が来ても反応しなかったのに、エラちゃんの声には反応する」。ダンはその様子を黙って見ていました。3年間、あの公園で一人でどんな思いで過ごしていたのか。嵐の夜にエラの声を聞いたとき、ハッピーはどんな気持ちだったのか——言葉にならないまま、ダンの胸の中に残りました。

17. サプライズの準備

リビングで静かに話し合う夫婦と無表情で支度する少年
リビングで静かに話し合う夫婦と無表情で支度する少年

一方、トンプソン家では、ベンとキャロルが話し合っていました。ライアンにはまだ何も伝えていません。「もし伝えてハッピーじゃなかったら、またショックを受けるから」とキャロルは言いました。写真で一致を確認したとき、ベンは声が出ませんでした。3年分の気持ちが一気に押し寄せてきたのです。2人はライアンに何も言わず、土曜日に「先生に会いに行こう」とだけ告げました。当日の朝、ライアンはいつもの無表情で支度をしていました。3年前のあの日から、あの子の笑顔を一度も見ていない、とベンは思いました。今日こそ——。

18. エラからの伝言

子供らしい字で手紙を書く少女の手元
子供らしい字で手紙を書く少女の手元

金曜日の夜、エラはマーカスに頼みました。「ハッピーに伝えてほしいことがあるんだけど」と。マーカスが「何を?」と聞くと、エラは紙に何かを書いて手渡しました。そこには小学生の字で「ハッピーへ。あなたのことが大好きです。もとの家族のところに帰って、いっぱい幸せになってね。エラより」と書かれていました。マーカスは受け取り、「ちゃんと伝える」と言いました。エラは病院を出る前に振り返り、ケージの中のハッピーをもう一度だけ見つめました。その目に涙はありませんでした。ただ、静かで真剣な目をしていました。

19. 運命の土曜日

車の窓から外を眺める少女と運転する父親
車の窓から外を眺める少女と運転する父親

土曜日の朝、モリス家とトンプソン家は別々に、マーカスの病院へ向かっていました。エラは車の中で窓の外を眺め、何も言いませんでした。ダンがバックミラーでエラの顔を確認しながら「会いたい? ハッピーに会いに来た家族に」と聞くと、エラは少し考えてから「うん」と答えました。「どんな子か知りたい。ハッピーが3年間待ってた子を」。ダンは前を向いたまま、目を細めました。この8歳の娘が、こんなに大きな心を持っていたのかと、改めて気づきながら。

20. はじめての対面

動物病院の待合室で初めて顔を合わせる二つの家族
動物病院の待合室で初めて顔を合わせる二つの家族

待合室に入ったとき、すでにトンプソン家が来ていました。ベンは背の高い男性で、キャロルはやさしそうな目をした女性でした。その隣に立っていた男の子が、エラと目が合いました。ライアン・トンプソン。エラと同じ8歳の、おとなしそうな男の子です。マーカスが「こちらがハッピーを見つけてくれたモリスさんご家族です」と紹介すると、ベンとキャロルは深々と頭を下げました。ライアンはまだ何が起きているのかわからない様子で、きょとんとしています。その表情が次の瞬間、一変することになるとは知らずに。

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