嵐の夜に8歳の少女が公園で拾った白い犬。獣医がタグの番号を調べたとき、3年分の悲しみが動き始めた

21. 名前を呼んだ瞬間

診察室に連れてこられた白い犬と固まる少年
診察室に連れてこられた白い犬と固まる少年

マーカスがケージからハッピーを連れてきました。ライアンは最初、それが何の動物かわからない様子でした。3年の歳月がたち、ハッピーは少しやつれています。でも、その白い毛並みとつぶらな瞳は変わっていませんでした。ライアンの顔が固まりました。信じられないというように、ゆっくりと一歩踏み出します。「……ハッピー?」とライアンは言いました。その声が届いた瞬間、ハッピーは点滴でまだ力が戻りきっていないにもかかわらず、ライアンに向かって必死に体を動かし始めました。診察室の全員が、息を呑みました。

22. 3年ぶりの温もり

白い犬を胸に抱きしめ涙をこらえる少年と泣く母親
白い犬を胸に抱きしめ涙をこらえる少年と泣く母親

ライアンはハッピーを両腕で受け取りました。ハッピーは震えながら、ライアンの胸に顔をうずめ、小さく鳴き続けました。3年間、その声を、ハッピーはちゃんと覚えていたのです。キャロルが口を押さえました。ベンは天井を見上げ、目をぎゅっと閉じました。マーカスはカルテを持ったまま、視線を窓の外へ向けていました。誰も何も言いませんでした。言葉など、この瞬間には必要なかったのです。しばらくして、ライアンがぽつりと言いました。「ずっと待ってたよ」。その一言に、キャロルの目から涙がこぼれ落ちました。

23. 同じ名前の不思議

同じ名前をつけていたと知り顔を見合わせる二人の子供
同じ名前をつけていたと知り顔を見合わせる二人の子供

少し落ち着いてから、ライアンはエラに聞きました。「この子の名前、なんてつけたの?」エラは答えました。「ハッピー」。ライアンは目を大きく開きました。「僕も、そう名前をつけた」。2人はしばらく顔を見合わせました。5歳のライアンが名前をつけてから3年後、別の家の8歳のエラがまったく同じ名前をつけていた。マーカスは「不思議なこともあるもんだ」と静かに言いました。エラはうなずきました。「だって、ハッピーって名前は、ハッピーにしか似合わないもん」。ベンはその言葉を聞いて、3年ぶりに声を出して笑いました。

24. 嵐の夜の話

嵐の夜の話をする少女と真剣に聞く少年
嵐の夜の話をする少女と真剣に聞く少年

マーカスが「ハッピーが見つかった夜の話を聞かせてあげてください」とエラに言いました。エラはライアンに、嵐の夜のことを話しました。深夜に公園へ走ったこと、ベンチの下で震えていたこと、父のダンが一緒に病院まで連れてきてくれたこと。ライアンはじっと聞いていました。途中から、その目が潤んでいるのがわかりました。話し終えると、ライアンは「……怖くなかった? 一人で夜に外に出て」と聞きました。エラは少し考えてから答えました。「怖かった。でも、ハッピーのほうがもっと怖かったと思うから」。ライアンはふっと笑いました。3年ぶりに見る、ライアンの笑顔でした。

25. ありがとう

犬を抱いたままお礼を言う少年と微笑む少女
犬を抱いたままお礼を言う少年と微笑む少女

帰り際、ライアンはエラの前に立ちました。ハッピーを胸に抱いたまま、少し迷ってから言いました。「ハッピーを助けてくれて、ありがとう。あと——ずっとそばにいてくれて、ありがとう」。エラは首を振りました。「ハッピーが私を呼んだんだよ。窓から見えたから」。ライアンは「呼んだ?」と聞き返しました。「うん、絶対そうだよ。だってすごい嵐の夜なのに、ちゃんと見えたもん」。ライアンはハッピーを見下ろし、「そうかもな」とつぶやきました。ベンとダンは離れたところでその様子を見守りながら、知らず知らずのうちに笑い合っていました。

26. 二つの家族

駐車場で笑顔で話し合う二人の父親
駐車場で笑顔で話し合う二人の父親

その日の帰り道、ベンはダンに言いました。「本当に、なんてお礼を言えばいいか」。ダンは首を振りました。「エラが勝手にやったことですから」。「いや」とベンは続けました。「あの嵐の夜に、一人で外に飛び出して命を拾ってきた。あの子はすごいことをした」。2人は駐車場でしばらく話し込みました。ベンがコーヒーを飲みに来ないかとダンを誘い、ダンは「ぜひ」と答えました。家族を失いかけていたトンプソン家と、家族が増える機会を探していたモリス家が、嵐の夜に生まれた縁でつながっていきます。

27. ハッピーの選択

床に並んで座り白い犬をなでる少女と少年
床に並んで座り白い犬をなでる少女と少年

トンプソン家が帰る前、エラはもう一度だけハッピーのそばに座らせてほしいと頼みました。ライアンも隣に座りました。2人は何も言わずにハッピーをなでていました。やがてハッピーは、エラの膝に顔を乗せ、それからライアンの手に鼻先をつけ、また2人の顔を交互に見上げました。まるで2人の間を取り持つように。「ハッピーって賢いね」とエラが言うと、ライアンが「ずっとそうだった」と答えました。「来週も会いに来ていい?」とエラが聞くと、ライアンは迷わずうなずきました。「絶対来て」と。

28. 毎週土曜日

ドッグパークで白い犬と遊ぶ二人の子供と見守る家族
ドッグパークで白い犬と遊ぶ二人の子供と見守る家族

それから、モリス家とトンプソン家は毎週土曜日にネイプルズのドッグパークで会うようになりました。ライアンは少しずつ、元の明るさを取り戻していきました。野球の練習にも戻り、担任の先生から「最近よく笑うようになりました」という連絡がキャロルのもとに届きました。エラとライアンは学校は違いましたが、すぐに大切な友達になりました。ハッピーは2人のどちらにも同じように甘えながら、公園を元気に駆け回っていました。ダンはその様子を見るたびに、あの嵐の夜のことを思い出しました。

29. マーカス先生からの電話

電話を持ちながらリビングで宿題をする娘を見つめる父親
電話を持ちながらリビングで宿題をする娘を見つめる父親

3週間後の月曜日、マーカスからダンに電話がかかってきました。「実は相談があるんですが」という切り出しに、ダンは少し身構えました。「知り合いのブリーダーから連絡が来まして。マルチーズの子犬が1頭、もらい手を探しているそうです。ハッピーと同じ白い子で、元気な女の子なんですが……モリスさんのご家族はどうかと思って」。ダンは受話器を持ったまま、リビングで宿題をしているエラをしばらく眺めていました。3冊のノートを書いた娘のことを考えていました。「少し、エラに聞いてみます」と答えたとき、ダンはもう答えを決めていました。

30. レイニーという名前

白い子犬を抱きしめて笑う少女と二匹の白い犬と二つの家族
白い子犬を抱きしめて笑う少女と二匹の白い犬と二つの家族

次の土曜日、マーカスの病院にモリス家の3人が揃いました。マーカスが小さな段ボール箱を持ってきて、白い子犬を取り出しました。エラの腕に乗せると、子犬はすぐに顔をなめ始めました。エラは笑いながら「名前、もう決めてある」と言いました。ダンが「何にするの?」と聞くと、エラは答えました。「レイニー。あの雨の夜に出会ったから」。ライアンとハッピーも一緒にいました。2匹の白い犬と、2人の子供と、2つの家族。嵐の夜に8歳の少女が走り出したことから始まった縁は、思いがけないほど多くのものをこの町にもたらしていました。

※この物語はフィクションです。登場人物や出来事はすべて架空のものであり、実在の人物や出来事とは一切関係ありません。写真はイメージです。

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