21. 12日の差

「私がミズーラを出たのは、1978年10月3日でした」とアンは静かに言いました。「知人を頼ってビリングスへ移ったの。荷物はほとんど残したまま、あの家には二度と戻らないつもりだった。あの箱のことも、すっかり忘れていた。もう誰かを待つことに、疲れ果てていたから」。彼女とリチャードがすれ違ったのは、たった12日間だったのでしょうか。
22. 新しい人生

アンはその後、ビリングスで小学校の教師になりました。1982年、同僚のトーマス・クラークと結婚しました。「トーマスはとても穏やかで、やさしい人でした」とアンは言いました。「でも、リチャードのことは一度も話せなかった。あの箱のことも、誰にも言えなかった。トーマスが2008年に亡くなってから、ここに来るまで、ずっと一人でした」。
23. リチャードを探す

帰宅後、イーサンはリチャード・コリンズという名前をインターネットで検索し始めました。フェニックスの地元紙に、2019年2月の死亡記事がありました。「リチャード・コリンズ、73歳で死去。ベトナム帰還兵。遺族に娘のサラ・コリンズ」。7年前に他界していたのです。リチャードはその後の47年間、いったいどんな人生を歩んでいたのでしょうか。
24. 娘からの返信

イーサンはSNSでサラ・コリンズを検索し、フェニックス在住の「リチャード・コリンズの娘」と名乗るアカウントにメッセージを送りました。数日後、返信が届きました。「お父さんのことをご存じなんですか? 父はいつもモンタナの話をしていました。ある女性のことを、ずっと忘れられなかったみたいで」。イーサンは震える手で返信を打ちました。
25. 探し続けた男

サラによれば、リチャードは晩年になっても「アン」という名前を口にし続けていたといいます。「父は一度も再婚しませんでした。ずっと探していたけれど、見つけられなかったと言っていた。諦められなかったみたいです」。イーサンはサラに、アンが今もエルクリバーの老人ホームにいることを伝えました。電話越しに、サラが息をのむ音が聞こえました。サラはこれからどうしようとしているのでしょうか。
26. モンタナへ

2週間後、サラはモンタナを訪れました。老人ホームを訪ねる前に、イーサンに会いたいと言いました。テーブルに30通の手紙を並べながら読むサラの目には、涙が光っていました。「この癖字、父そのものだわ。私が子どもの頃に書いてくれたカードと、まったく同じ」とサラはつぶやきました。サラはアンと会う前に、何かを覚悟している様子でした。
27. 父の遺品

サラは小さな木箱を持参していました。「これは父の遺品の中にあったものです。施設の方が、父は亡くなる直前まで肌身離さず持っていたと教えてくれました」とサラは言いました。蓋を開けると、一枚の古い写真と細い金の指輪が入っていました。写真の女性は若く、廃屋になる前のアンの家の前に立って微笑んでいました。
28. 二人の対面

アンとサラは老人ホームの窓辺で向き合いました。どちらも長い間、言葉を発しませんでした。やがてアンが先に口を開きました。「リチャードの目と同じね」とアンは言いました。サラが「父は1978年10月15日、本当にあなたの家を訪ねてきたんです」と言った瞬間、アンの体が小さく震えました。10月15日のその日、リチャードはあの家の前で何を見たのでしょうか。
29. すれ違いの朝

「隣人に、あなたは引っ越したと教えられたそうです」とサラは続けました。「父はその場に座り込んで、しばらく立てなかったと言っていた」。アンはゆっくりと目を閉じました。「私がミズーラを出たのが10月3日で、彼が来たのが15日。12日だけ、すれ違った」と彼女は静かに言いました。「12日早く出ていかなければ、全部変わっていたかもしれない」。
30. 最後の手紙

サラがそっと指輪をアンの手に置きました。内側に細かな文字が刻まれていました。「A.W. to R.C. Always」——アン・ホイットモアとリチャード・コリンズ、いつまでも。アンは指輪を長い間、両手でそっと包み込んでいました。「ありがとう、イーサン」と彼女はやがて言いました。「あの嵐が、50年遅れた手紙を届けてくれたのかもしれないわね」。
※この物語はフィクションです。登場人物や出来事はすべて架空のものであり、実在の人物や出来事とは一切関係ありません。写真はイメージです