1. 農場の門に立つ馬

コロラド州グレンウッドスプリングス郊外の牧場で、朝5時に起きたトム・ヘンダーソン(40歳)は、コーヒーを手に牧草地を見渡したとき、農場の入り口に何かがいることに気づきました。秋の朝靄の中に、栗毛の馬が立っていました。痩せていて、たてがみが乱れていました。泥と草が全身についていました。しかし体の輪郭は忘れようもないものでした。トムはコーヒーカップを置いて、ゆっくりと歩き始めました。心臓が激しく打っていました。
2. 額の白い星

トムが近づくと、馬がこちらを向きました。額の中央に、雪のように白い流星マークがありました。この特徴的なマークを持つ馬を、トムはこれまで一頭しか知りませんでした。3年前に涙をこらえながら手放したあの馬です。しかしその馬は500km以上離れたプエブロにいるはずです。なぜこの馬がここにいるのでしょうか?
3. エマの叫び

朝食の準備をしていたサラが台所の窓から外を見て、声を上げました。12歳のエマが眠い目をこすりながらリビングに出てきたとき、父親がフェンスに寄り添って馬と顔を合わせているのが見えました。エマは靴も履かずに外に飛び出しました。「スピリット!」と叫びながら走りました。トムは振り返り、エマの目を見ました。これは本当にスピリットなのでしょうか。3年の月日と500kmの距離を越えて帰ってきた、あの馬なのでしょうか?
4. スピリットとの出会い

エマが6歳の誕生日に、トムとサラはエマを馬小屋に連れてきました。「プレゼントはあの扉の向こうにあるよ」と言って扉を開けると、栗毛の子馬がいました。額に白い流星マークがありました。エマは「スピリット!」と名前をつけました。なぜその名前を思いついたのかと聞くと「この子、自由の魂を持ってるから」と答えました。それがスピリットとヘンダーソン家の出会いでした。
5. ヘンダーソン牧場の日常

ヘンダーソン牧場はグレンウッドスプリングス郊外の400エーカーの牧場で、牛50頭を育てていました。トムは3代目の牧場主で、サラは地元出身でした。スピリットはすぐに牧場になじみ、毎朝エマとともに起きて、エマが帰ってくるのをいつも柵の前で待っていました。放課後のエマとスピリットの散歩は、ヘンダーソン牧場の日常の一部になっていました。
6. エマとスピリットの絆

エマとスピリットの絆は年を追うごとに深まりました。エマが学校でいやなことがあって泣いて帰った日、スピリットはいつも柵のそばに来てエマの顔をなめました。エマが名前を呼ぶと、遠くの草原からでも耳をぴくりとさせて振り向きました。トムは「あの馬はエマの言葉がわかるんだ」と言っていました。スピリットにとって、エマが呼ぶ声はいつまでも忘れられないものだったのでしょうか?
7. 財政危機

エマが9歳のとき、牧場の経営が急速に悪化しました。干ばつで牧草の収量が激減し、牛の半数を売却せざるを得なくなりました。銀行からは融資の返済を迫られました。トムは夜中に台所のテーブルで計算を繰り返しましたが、数字は改善しませんでした。サラが静かに言いました。「スピリットを手放せば、少し楽になる」と。トムはその言葉を聞いて、長い間窓の外を見ていました。
8. 売却の決断

3日後、トムはプエブロの馬ブリーダー、ダン・ウォレスからの買い取りを受諾しました。エマには学校が終わるまで黙っていました。しかし帰宅したエマは、見知らぬトラックが来て馬小屋の扉が閉まっているのを見て、すべてを悟りました。9歳の子供にこの別れを理解させることができるのでしょうか。トムはその夜、エマの部屋の前で声が出なくなりました。
9. 別れの日

翌朝、エマはトラックが来る前に馬小屋に行き、1時間スピリットの首に抱きついていました。「また会えるよ」と言いたくても、口から出てくるのは泣き声だけでした。トラックの荷台にスピリットが乗り込む瞬間、スピリットはエマの方を向いて一声いなないました。エマは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、トラックが見えなくなるまで手を振り続けました。サラはエマの肩を抱いて、一緒に泣きました。
10. 3年間の空白

3年が経ちました。牧場の経営は少しずつ立て直されました。新しい馬も2頭迎えましたが、エマはスピリットのことを話さなくなりました。部屋にはまだ2人で撮った写真が貼ってありました。毎年10月になるとエマは少し口数が減りました。スピリットが来たのが10月で、売られたのも10月だったからです。3年間、スピリットはどこで、どんなふうに生きていたのでしょうか?