ハーバートの記録
センターに出向くと、担当のノーマが迎えてくれた。「リンダさんのご主人ですね。長い間お世話になりました」とノーマは言い、ハーバート・ウォーカーが八十七歳で先月亡くなったこと、十一年以上にわたってリンダが毎月訪問を続けていたことを話してくれた。見せてもらった記録には、最初の訪問が結婚翌年の春と記されていた。「特にご家族がいらっしゃらない方でしたので、リンダさんには本当に感謝していました」とノーマは言った。十一年間、夫は何も知らなかった。
十一年間の訪問記録
記録をめくると、リンダの訪問が欠かさず毎月記されていた。空白があったのは出産した月と入院した月だけで、それ以外はすべて埋まっていた。コメント欄にはハーバートの反応が添えられていた。「今日はリンダさんが来てくれて、本当に嬉しそうだった」「リンダさんが本を読み聞かせてくれた」「リンダさんとトランプをした」。十一年分の言葉が、ページをめくるたびに続いた。十一年間、毎月ここに来ていたという事実を、トムは本当に受け入れることができたのでしょうか。
なぜ言わなかったのか
家に帰り、トムはリンダに向き合った。「ハーバート・ウォーカーさんのことを知った」と言うと、リンダはゆっくりと顔を上げた。「なぜ言わなかったんだ。十一年間、一度も話してくれなかった」とトムが続けると、リンダはしばらく黙り、「言いにくかった。ハーバートさんは、あなたに話すような関係じゃなかったから」と言った。「話すような関係」ではないとは、どういう意味だったのでしょうか。
ハーバートとの出会い
リンダが初めてハーバートを訪ねたのは、結婚翌年の春だった。「偶然センターのチラシを見て、何か始めようと思って」とリンダは言った。ハーバートは当時七十六歳で、妻に先立たれ、子どもはなく、一人で小さなアパートに住んでいた。「最初は緊張したけど、話してみたらすごく面白い人で」とリンダは続けた。若い頃に靴職人として生きてきたこと、その仕事に深い誇りを持っていたことを、靴職人として生きてきた老人の話を、リンダはどんな気持ちで聞いていたのでしょうか。
靴職人の老人
ハーバートは若い頃、ポートランドで靴工房を開き、手縫いの革靴を一足一足丁寧に作る仕事を三十年続けた。「今の既製品とは違う。履いた人の足に合わせていくから、十年二十年と使える」とハーバートはいつも言っていたとリンダは話した。スーツケースにあったあの靴は、ハーバートが若い頃に自分の足のために作った一足だった。「来るたびに磨いて見せてくれた。これが自分の仕事の証しだと言って」とリンダは言った。その靴を、なぜハーバートはリンダに渡したのでしょうか。
毎月の時間
十一年間、毎月第二土曜日にリンダはハーバートの部屋を訪ね、二時間から三時間を過ごした。本を読み、トランプをし、昔話に耳を傾けた。「娘みたいだ」とハーバートは言ってくれたとリンダは話した。兄弟も先に逝き、訪ねてくる人間がほとんどいなかったハーバートにとって、その時間は大切なものだったはずだ。「行くたびに嬉しそうだった。私も行くのが楽しかった」とリンダは言った。それでもなぜ、トムにはその話をすることができなかったのでしょうか。
言えなかった理由
「最初は軽い気持ちで始めた。でも続くうちに、あなたに話すのが難しくなった」とリンダは言った。「あなたは忙しかった。仕事で帰りも遅かった。心配させると思って、言い出せなかった」。それだけではなく、「ハーバートさんとの時間が私だけのものみたいで、誰かに話すと変わってしまいそうだった」とリンダは続けた。トムは黙って聞いた。十一年間、妻がひとりで守ってきた時間があった。それを、自分は一度も気づこうとしなかった。
最後の訪問
先月、リンダはユージーンの義母を見舞う前日にポートランドへ寄り、ハーバートの入院する施設を訪ねた。「容体が悪かった。もう長くないと聞いていた」とリンダは言った。酸素マスクをつけてやせ細ったハーバートは、リンダが入室すると目を開け、「来てくれた」と言った。「来ましたよ」とリンダは答えた。二人は静かな時間を過ごした。それが最後の訪問になるとリンダは感じていたのでしょうか。
靴を渡された日
ハーバートは「取ってくれ」と言い、ベッドサイドの棚にあるあの革靴を示した。「持っていってほしい」とハーバートは言った。「困ります、大切な靴じゃないですか」とリンダが断ると、「だから持っていってほしいんだ。棄てられたくないから、大切だから、誰かに持っていてほしい」とハーバートは言った。リンダは靴を受け取った。「ありがとう、十一年間来てくれて」とハーバートはその言葉を添えた。その言葉を、リンダはどんな気持ちで受け取ったのでしょうか。
三日後の訃報
リンダが義母の見舞いを終えてポートランドに戻った夜、センターから電話があり、ハーバートが静かに亡くなったと告げられた。リンダはすぐにスーツケースから革靴を取り出し、磨かれた茶色の靴を膝に置いてしばらくそのまま座っていた。「泣けなかった。泣いていい関係かどうか分からなくて」と、リンダは後にトムに話した。靴をスーツケースに入れたのは、持ち帰る場所が分からなかったからだと、リンダは言った。