母が死んで3日後、16歳の少年はひとりバスに乗った——タンスの底に隠されていた封筒の中身

1. タンスの底の封筒

薄暗いアパートの部屋で古い引き出しの底に隠された封筒を発見する少年
薄暗いアパートの部屋で古い引き出しの底に隠された封筒を発見する少年

マイルズが古びた封筒を見つけたのは、母エレナが息を引き取ってから三日後のことでした。施設への引き渡しを翌日に控えて荷物を整理していたとき、タンスの一番下の引き出しの底——剥がれかけた木板の裏に、丁寧に貼り付けられた茶色い封筒がありました。中には白黒の写真一枚と、小さく折り畳まれたメモが入っていました。写真の裏には「君の父親」とあり、メモには「テキサスへ行け。ダラス、コールド・スプリング・ロード72番地」と書かれていました。財布を確認すると、74ドルが入っていました。テキサスまでのバス代には、ちょうど足りる金額でした。

2. 74ドルの出発

アトランタのバスターミナルで一人チケットを買う16歳の少年の後ろ姿
アトランタのバスターミナルで一人チケットを買う16歳の少年の後ろ姿

翌朝、マイルズはアトランタのバスターミナルに立っていました。後見人には「友達の家に泊まる」と伝えてあり、リュック一つで窓口へ向かいました。74ドルはダラス行きの片道チケット代にぴったりでした。バスが動き出した瞬間、マイルズは初めて泣きました。怖いからでも悲しいからでもなく、何かが弾けたような感覚でした。それにしても、テキサスまでのバス代にちょうど足りる金額を、誰が封筒に入れておいたのでしょうか。

3. 見知らぬ乗客

バスの車内で隣に座る謎めいた初老の男性と緊張した面持ちの少年
バスの車内で隣に座る謎めいた初老の男性と緊張した面持ちの少年

バスがジョージア州の州境を越えたころ、隣の席に初老の男が座りました。グレーのジャケットにハット姿の男は、窓の外を向いたまま言いました。「ダラスには何しに行く」。マイルズは驚いて男を見ました。行き先など一言も話していませんでした。男はかすかに笑い「この路線はダラス行きしかないからな」と続けましたが、その視線は一瞬だけ、マイルズのポケット——写真をしまった場所——に落ちていました。マイルズはその目の動きを見逃しませんでした。

4. 黙り続けた母

晴れた公園で手をつないで歩く若い母と幼い少年の温かな後ろ姿
晴れた公園で手をつないで歩く若い母と幼い少年の温かな後ろ姿

マイルズが物心ついたころから、エレナはひとりでした。父親の話を切り出すたびに、エレナは必ず話を変えていました。マイルズが8歳のとき、引き出しの中に大人向けの地図帳があり、テキサスのページだけ折り目がついているのを見つけました。「なぜテキサスに?」と聞くと「間違えて開いた」とだけ答えました。しかしエレナはその地図帳を、翌日には捨てていました。テキサスという名前を、エレナはなぜそれほど隠したかったのでしょうか。

5. 春の診断

病院のベッドで横になる母親の手を優しく握る少年
病院のベッドで横になる母親の手を優しく握る少年

エレナが脳腫瘍と診断されたのは、マイルズが13歳の春でした。手術は成功しましたが再発し、二度目の手術の後、言葉が不明瞭になっていきました。それでも彼女はマイルズを見るたびに笑い、施設への入所を頑として断り続けました。ある夜、マイルズが様子を見に行くと、エレナはうわごとで「ジェイク、もういい——もう十分だ」と繰り返していました。ジェイクとは、いったい誰なのでしょうか。

6. 最後の夜

夜遅く薬の瓶を並べて管理する少年と、ベッドで眠る母の静かな部屋
夜遅く薬の瓶を並べて管理する少年と、ベッドで眠る母の静かな部屋

エレナが最後に意識を失う前夜、彼女はマイルズの手を力強く握り、唇を動かしました。声にはなりませんでした。マイルズは顔を近づけ、唇の動きを読もうとしました。「テ、キ、サ、ス」——そう読めた気がしましたが、確信はありませんでした。翌朝、エレナは目覚めませんでした。封筒のメモに「テキサスへ行け」と書かれているのを見たとき、マイルズはあの夜の唇の動きを思い出しました。エレナはあのとき、テキサスへ行けと伝えようとしていたのでしょうか。

7. 引き出しの秘密

古いタンスの引き出しの底から茶色い封筒を取り出す少年の手元
古いタンスの引き出しの底から茶色い封筒を取り出す少年の手元

エレナが逝って一日後、マイルズは一人で部屋を片付け始めました。タンスの引き出しを開けるたびに母の匂いがしました。一番下の引き出しの底——剥がれかけた木板の裏に、茶色い封筒が貼り付けてありました。誰にも見つけられないように、丁寧に隠されていました。写真の男は三十歳前後で、広い草原を背景に立って笑っていました。マイルズは思わず写真を裏返しました。「君の父親」——たった四文字が、胸の奥へ刃のように刺さっていきました。

8. たった一行の命令

手書きの文字で住所だけが書かれた古びたメモのクローズアップ
手書きの文字で住所だけが書かれた古びたメモのクローズアップ

メモを開くと、見慣れない筆跡で短い文章が書かれていました。「テキサスへ行け。ダラス、コールド・スプリング・ロード72番地」。日付も署名もなく、住所だけでした。翌日には施設へ行かなければならないことはわかっていました。しかしマイルズの頭の中では、すでに別の決断が固まり始めていました。この命令を書いたのは、いったい誰なのでしょうか。

9. 夜明け前

夜明け前のアトランタの街をリュックを背負い一人で歩く少年の後ろ姿
夜明け前のアトランタの街をリュックを背負い一人で歩く少年の後ろ姿

その夜、マイルズは眠れませんでした。施設に入れば、テキサスには行けなくなります。十八歳になるまでの二年間、規則に縛られます。そのあいだに写真の男が死んでしまったら、二度とチャンスはありません。朝五時に起き、着替えと荷物をリュックに詰めました。財布には74ドルだけです。振り返りはしませんでしたが、玄関でただ一度だけ立ち止まりました。「待っててね、お母さん」——声に出すつもりはなかったのに、言葉は自然にこぼれていました。

10. アラバマの車窓

バスの窓越しにアラバマの赤土の丘と松林を眺める少年の横顔
バスの窓越しにアラバマの赤土の丘と松林を眺める少年の横顔

バスはアラバマ州に入っていました。車窓から赤土の丘と松の林が流れていきました。マイルズは写真の男の顔を何度も確認しました。目元が自分に似ている気がしましたが、そう思いたいだけかもしれません。隣のグレージャケットの男はいつの間にか眠っており、かすかないびきをかいていました。次の停車地はバーミングハムで、乗り換えがあります。見知らぬこの男は、なぜダラス行きのバスに乗っているのでしょうか。

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