赤いドレス――夫の葬式に黒を着なかった妻が、最後に読み上げた手紙

11. 診断の日

膵臓がんの告知を受けた日、フランクは帰り道に何も言わなかった。エレンも何も言わなかった。二人はいつものカフェに入り、コーヒーを注文した。フランクは砂糖を一杯入れた。普段は入れない。「甘いものが急に食べたくなった」とフランクは言った。エレンはその理由を聞かなかった。カップを両手で包んで、フランクは窓の外を見ていた。リッチモンドの街が秋の光の中に沈んでいた。エレンは夫の横顔をそっと見つめた。

12. 余命の言葉

主治医のエドワード・グリーン医師から余命一年と告げられた。フランクは「わかりました」とだけ言った。帰宅してから、フランクは書斎に入り扉を閉めた。エレンはドアの前で立ち止まり、ノックしなかった。三十分後、フランクが出てきた。その目は赤かったが、表情は穏やかだった。「やることがある」とフランクは言った。「何を?」とエレンが聞いた。「ちょっとした手紙を書く」。その手紙が何を意味するのか、エレンはそのとき知ることができたのでしょうか。

13. 変わらない朝

フランクは抗がん剤治療を受けながら、できる限り普通の生活を続けた。朝のコーヒー、読書、散歩。エレンとの会話も変わらなかった。「焦げたオムレツが食べたい」とフランクが言い、エレンが作った。相変わらず焦げていた。「やっぱり焦げてる」とフランクが笑った。エレンも笑った。ただ、フランクが時折書斎に入り、長い時間をかけて何かを書いていた。エレンは聞かなかった。聞けなかったのかもしれない。

14. キャサリンの電話

娘のキャサリンが毎週電話をかけてくるようになった。「パパ、元気?無理してない?」と心配した。フランクはいつも「大丈夫だ、元気だよ」と答えた。ある夜、キャサリンがエレンに電話してきた。「お母さん、正直に言って。パパ、本当に大丈夫なの?」。エレンは少しの間黙ってから「大丈夫よ」と答えた。電話を切った後、エレンは窓の外を見た。フランクが書斎の電気をつけたまま、何かを書いていた。あの封筒の中には、一体何が書かれているのでしょうか。

15. 七十歳の誕生日

フランクの七十歳の誕生日、家族が集まった。キャサリン夫婦、マイケル夫婦、孫たちも来た。フランクはケーキのろうそくを吹き消しながら言った。「願い事は一つだ」。「何?」とマイケルが聞いた。フランクはエレンを見た。「もうかなってる」とだけ言って笑った。エレンは夫の目を見て、うなずいた。その意味を分かっているのはエレンだけだった。夜遅く、全員が帰った後、フランクは書斎に入り、長い時間をかけて何かを書き終えた。

16. 夏の終わり

夏の終わり、フランクの体力が急に落ちた。歩くのが辛くなり、食事も少量しか取れなくなった。それでもフランクは毎朝窓のそばの椅子に座り、庭を見ていた。エレンはその隣に椅子を置き、一緒に庭を見た。「あの薔薇、来年も咲くかな」とフランクが言った。「咲くわよ」とエレンは答えた。フランクは「そうだな」とだけ言った。二人の間に流れる静かな時間は、言葉より多くのことを語っていた。フランクはまだ、エレンに伝えていないことがあるのでしょうか。

17. 白い封筒

ある夜、フランクはエレンを書斎に呼んだ。机の上に白い封筒が置かれていた。「俺が逝った後に開けてくれ」とフランクは言った。エレンは封筒を手に取った。表には「エレンへ」と書かれていた。フランクの字だった。エレンは封筒を胸に抱えた。「約束してくれ」とフランクが言った。「約束する」とエレンは答えた。フランクは安心したように微笑んだ。その夜、エレンは封筒をベッドのそばに置いて眠った。読まないことが、約束の一部だと感じたから。

18. 十月の朝

十月の初め、フランクは静かに息を引き取った。エレンはそばにいた。キャサリンもマイケルも間に合わなかった。エレンはフランクの手を握り続けた。涙は出なかった。声も出なかった。ただ、手の温もりがゆっくりと失われていくのを感じていた。葬儀の手配をする中で、エレンはあの封筒のことを思った。中を読む前に、まずやるべきことがある。フランクがエレンに頼んでいた、あのことを守らなければならないのでしょうか。

19. 封筒を開ける

葬儀の前夜、エレンは一人で書斎に入った。机の上に封筒を置いた。しばらく眺めてから、ゆっくりと開けた。フランクの字が目に入った。便箋三枚。エレンは最初の一行を読んだ瞬間、思わず手が止まった。「エレン、頼みがある。俺の葬儀には、一番きれいな服を着てきてくれ」。エレンはその続きを読んだ。読み終えた後、便箋を丁寧に折り、封筒に戻した。それをハンドバッグに入れた。翌朝、エレンはクローゼットを開け、ある一着を取り出した。

20. 選ばれた一着

エレンが取り出したのは、結婚二十周年の記念にフランクが贈った深紅のドレスだった。「お前には赤が似合う」と言って選んでくれた一着だった。エレンはゆっくりとそれを着た。鏡を見た。四十年前とは違う顔があった。でも確かに、赤いドレスを着た自分がそこにいた。キャサリンの電話が鳴った。「お母さん、もうすぐ車が行くけど——え、何それ?着替えて!」。エレンは「これがいいの」と答えた。フランクが、そう言っていたのでしょうか。

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