8歳の絵――70年後、それはニューヨークの美術館の壁に掛かっていた

21. ジャックへの手紙

ドロシーはエドワードに手紙を書いた。「あなたのお祖父さんへ。この絵を大切にしてくださり、ありがとうございました。あなたのお祖父さんのおかげで、私は七十年後に祖母の姿に再会することができました。ジャック・ソーントンさんへの感謝を、あなたを通じてお伝えできれば嬉しいです」。エドワードから返事が来た。「祖父は二十年前に亡くなりました。でも、祖母にこの手紙を届けます。きっと喜びます。祖父も、どこかで喜んでいると思います」。

22. マーガレットの電話

一週間後、ドロシーの元に電話が来た。エドワードの祖母、マーガレットからだった。「Dorothyさん?私、マーガレットといいます。ジャックの妻です」。マーガレットの声は震えていた。「ジャックはずっと言っていたんです。Dorothyはきっとどこかで元気にしていると。見つけられなくてごめんなと」。ドロシーも声が出なかった。「見つかりましたよ」とドロシーは言った。「七十年かかりましたが」。マーガレットはしばらく何も言わなかった。泣いていたのでしょうか。

23. 二人の老婦人

エドワードの計らいで、ドロシーとマーガレットが会うことになった。マーガレットはニュージャージー州に住む八十九歳の老婦人だった。エドワードが車で連れてきた。ドロシーの家のリビングに二人が向き合った。マーガレットはドロシーの手を取った。「あなたがDorothyさんですか」と言った。「そうです」とドロシーは答えた。マーガレットは顔を歪めた。「ジャックが喜んでいると思います。本当に」。ドロシーはマーガレットの手を握り返した。

24. 赤い傘の話

マーガレットは言った。「ジャックはあの絵をとても大切にしていました。子どもが描いたとは思えない、心のある絵だと言って」。ドロシーは言った。「祖母が赤い傘を持ち歩く人でした。目立つのが好きで」。マーガレットは微笑んだ。「ジャックも似ていました。目立つことが好きで、軍服の帽子をいつも斜めにかぶっていた」。二人は笑った。七十年前に一秒も会ったことのない人間が、赤い傘を通じてこんなに近くにいたのでしょうか。

25. もう一枚の絵

その後、ドロシーはある決断をした。絵を返してもらってから二ヶ月が経った頃、もう一枚絵を描いた。同じ構図。青い海と白い浜と赤い傘の後ろ姿。今度は色鉛筆で丁寧に仕上げた。裏に書いた。「Jack Thorntonへ。Dorothy Harperより、2014年。ありがとうございました」。エドワードを通じて、マーガレットに届けた。マーガレットから「ジャックの写真の隣に飾ります」という返事が来た。

26. 孫娘への話

スーザンの娘、エミリー(十四歳)がドロシーの家に遊びに来た日、絵を見て「おばあちゃんが描いたの?」と聞いた。ドロシーは話して聞かせた。疎開の朝のこと。宿での出来事。七十年後の再会。エミリーは黙って聞いていた。話し終えると「その兵士の人、いい人だったんだね」と言った。「そうよ」とドロシーは言った。「会ったことないけど、いい人だったと思う」。エミリーは絵をしばらく見てから「私もこういう絵が描きたい」と言った。祖母の絵が、また誰かの心に届いたのでしょうか。

27. 秋の光の中で

十月になると、窓からの光が変わる。朝の角度が低くなり、部屋の奥まで差し込んでくる。ドロシーは毎朝その光の中に絵を置いた。褪せた青が少し鮮やかに見える時間があった。赤い傘も、朝の光の中では深みが出た。ドロシーは椅子に座り、コーヒーを飲みながら絵を見た。今は十月だ。あの夏の日から七十年が経った。絵はここに戻ってきた。祖母の赤い傘も、ここにある。

28. 一通の手紙

翌春、エドワードから手紙が届いた。「祖母のマーガレットが先月、静かに眠りにつきました。九十歳でした。最後まで元気で、Dorothyさんのことを何度も話していました。祖父とDorothyさんの絵が並んで飾られた部屋で逝きました。Dorothyさんに出会えたことを、とても喜んでいました」。ドロシーは手紙を読み終えた後、しばらく動かなかった。マーガレットは最後に、どんなことを考えていたのでしょうか。

29. 春の美術館

夏になり、ドロシーはエドワードと一緒に美術館を再び訪れた。展示の一角に小さなパネルが飾られていた。ドロシーの絵と、マーガレットの部屋の写真と、ジャックの軍の写真が並べられた。「戦後の縁」という企画展の一部になっていた。解説文にはドロシーとジャック、そしてマーガレットの話が書かれていた。ドロシーはパネルの前に立ち、ジャックの写真を見た。笑顔の軍人だった。

30. 帰り道

美術館を出た後、エドワードがドロシーをカフェに連れて行った。外のテーブルに座り、コーヒーを飲んだ。五月の風が心地よかった。「祖父は会えてよかったと思っていると思います」とエドワードは言った。「私もそう思います」とドロシーは答えた。しばらく二人は黙ってコーヒーを飲んだ。ドロシーはバッグの中から小さな写真を出した。八歳のときの写真。麦わら帽子を被り、画用紙を持って笑っていた。「あの夏の私です」とドロシーは言った。エドワードはその写真を見て、微笑んだ。七十年の時間を超えて、一枚の絵が結んだ縁は、これからも続いていくのかもしれません。※この物語はフィクションです。登場人物や出来事はすべて架空のものであり、実在の人物や出来事とは一切関係ありません。写真はイメージです。

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